SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

怪奇な話

どういうわけか怖い話が好きである。
子供のころは、夜中に便所に行くのが怖くて怖くて仕方なかった。お化けというものとあの闇の世界が恐ろしくて仕方なった。
なのに怖い話が好きになった。なんでだろ?
実をいうと今でも夜中に便所へ行くのが怖い。笑わば笑え(笑)
これには、昔読んだ村上春樹の怪談話が大きな影響を与えている。
去年創元社から出版された「日本怪奇小説傑作選」でちょっと残念に思ったのは、この怪談話の素晴らしい書き手である村上作品が一つも取り上げられなかったことである。
て、いいかそんなことは(笑)
で、その氏のなんというタイトルだったか忘れてしまったし、内容もきちんと覚えてないのだけれど、夜の学校で大きな鏡に映る自分の姿を見て云々という話があった。その部分的な記憶が、頭の片隅にこびりついていて便所へ行くたびにそれを思い出す。
うちの便所は、洗面所の前を通らなければいけないのでどうしてもその洗面所の鏡の前を通ることになる。
薄暗がりの中に浮かび上がるその洗面所の鏡がその話をどうしても思い出させるのだ。そうなのだ。
その薄暗がりの中に浮かび上がる鏡の中をうっかりのぞいてしまったら、、、そこに映る自分がにやりと笑って、何か得たいの知れないことを言い出すんじゃないか、妙な動きをするんじゃないか、今ここにいる自分と入れ替わって自分が鏡の世界に閉じ込められてしまうんじゃないか云々(と、この辺は、他の怪談話の影響もあります(笑)となにしろ気味の悪いことを考えてしまうのだ。
だからいつも素知らぬふりをして下を向いてえいっと便所に入り用を足し、一目散に蒲団に戻る事にしている。笑わば笑え(笑)
しかし、世の中にはそんな薄気味の悪い、恐ろしい怪談話とはまるでちがった怪談話もあるのである。それがタイトルの
「怪奇な話」吉田健一 著

なのである。
ある地方の旅館に宿泊した主人公のその部屋に女の幽霊があらわれる。細かい事は忘れてしまったのだが、その幽霊と少しづつ懇意になっていき東京に連れ帰り、そこで一緒に暮らすという話なのだ。いくらか不気味なところもなくはないが、主人公がその幽霊に惹かれて行くその様が、なんとも自然でほのぼのとした温か味を感じさせる。
もうひとつ、以前そこに暮らしていた家族の幽霊が出る幽霊屋敷の話なのだが、主人公が徐々にその幽霊の家族と打ち解けあっていく姿がこれまた自然にほのぼのと、日向ぼっこでもする様に描かれていて不思議な読後感を与える幽霊屋敷という話もある。
イギリス文学に造詣が深い吉田健一であるがゆえに書くことができた、いわゆる洋風怪談と和風怪談が絶妙にブレンドされた独自の怪談だと思うんだけどどうでしょう?この「怪奇な話」には、他にも洋風趣味の不思議な話が入っていてとても楽しめるのでお薦めしたい。それと吉田健一独特のその言い回しの妙も味わっていただきたい。
もうひとり、死の世界を現実の世界に受け入れようと怪談話を書いた橘外男という作家がいる。その作品を「逗子物語」という。こちらは和風趣味で少し背筋が寒くなるようなところもあるが、子供の幽霊との温もりのあるあたたかい情交を描いた作品なのでお薦めしたい。この橘外男は、本当に恐ろしい怪談話「蒲団」なんていうのも書いてるので、心から恐怖をお望みの方には打ってつけなんでこちらもよろしければどうぞ。
ちなみに、吉田健一「怪奇な話」、そして橘外男コンスタンチノープル」「妖花ユウゼニカ」
(グロテスク・エキゾチシズム・エロチシズムが渾然一体となった名品ですよ)


が、古本「山風蠱」http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Piano/9491/newpage3.htm
にもアップされてるんでよろしくお願いいたします。ぺこり。そんじゃ、また。