SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

幕末太陽伝

録画しておいた「幕末太陽伝」を見る。
しかし、いいねぇ、この動きのある映画。そして粋な所作に落語がらみの粋な笑いって、笑いに粋も無粋もありゃしませんが(笑)。
それにしても岡田真澄の髷っていうのは、それだけでくくくっと笑えますな。でもって「生粋の品川生まれ」って何度も言うところもいいんですな。これまたずいぶん昔に見た「マラソン侍」に出ていた大泉晃を彷彿とさせます。
何しろ全篇スピーディな話なもんで、そのセリフ回しが早すぎて聞き取れない部分も多々あり、それが難といえば難なんですが、フランキー堺を始めとする出演陣の動きが何とも軽快でそれを補って余りあります。ある意味ドタバタのスラップスティックを狙ったような演出だったんじゃないでしょうか。
で、「居残り佐平次」、「芝浜」、「品川心中」「見立て」などの落語話をちりばめてあるってぇわけなんですが、今回見てて、こりゃ「強情灸」も入ってんなとピンときたんですな。ってきっとほかにもいっぱい入ってんでしょうが、こう見えて落語たいして知らないんスから、どうもすいません。知ってる話が出てきたもんで、得意になって書いちゃいますが(笑)。
映画では、佐平次が薪をどんどんくべる熱い風呂に、佐平次に惚れてるもんだから「いい湯だ、最高の湯だ」と我慢して入ってる南田洋子左幸子(かわいいっす)、菅井きん(変わんないっす(笑)、このやり手ばばあは、別に惚れてないか)の場面で、菅井きんがもうだめといった感じで背中を向けるとその背中にはお灸の後が点々とついてるんですな。
これですよ、これ。これは、志ん生の「強情灸」の枕であります、熱い風呂好きの我慢場面の踏襲であります、なんて思ったわけです。あれもほんと面白い枕で、もしなんかの機会があったら聞いてみていただきたいんですが。
あ、あとやっぱり貸本屋の金ちゃんこと小沢昭一迷優ぶりには、笑わせられました。川に飛び込んで心中する予定が、一人だけ飛び込まされて、それも膝までしかない川で、ザンバラ髪で立ち上がったその右手には、猫の死骸をぶら下げて、それ見てびっくりする件なんかあったりして、あれ、絶対本物の死骸使ってると思うんだけれども。
それと死体になって運び込まれる件、あれは「らくだ」あたりが入ってるんじゃないでしょうか。それと大工が仕事道具を借金のかたに取られちゃうってぇのも「大工しらべ」あたりかなぁ、、、。
って、話がとっ散らかっちゃってすいません。
ま、そんな面白さと、川島雄三自身を投影したというフランキー堺のニヒルさが相まった、やはり傑作と呼ぶにふさわしい映画でありました。
ひとつだけ、ひっかかってるんですが、最後に出てくるブーちゃん、市村俊幸だけはどういうわけか、うまい具合に煙に巻けないんですな。あれは絶対なんか意味があると思うんだけど、じゃなけりゃ、あんな顔がぐんぐんとアップにならないだろうし、フランキーもぐっとつまったような顔しないだろうし。
うーん、なんとなくですが、田舎の東北のオヤジさんでも思い出してんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?(笑)
別のラストシーンもあったっていう「まだまだ生きるんでぇ〜」街道をかけて行く後姿はいいなぁ。