SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

兄ぃ思い出

suzukimondo2008-08-02

定期的に聴き返したくなるアルバムっていうのがあって、「なんでだろう?」なんてことを考えずにいつも聴き返して「変わんねぇなぁ」なんてホッとしたりして(笑)
そんなアルバムの一枚がこのアーニー・グラハム。
ジョン・サイモンやボビー・チャールズらを復刻したワーナーの名盤復活の後を受け、様々な名盤復刻の動きが活発になった70年代の終わりごろ、このアーニーはヒッソリと復刻された気がする。渋谷のロック喫茶でたびたび聴いていたこのアルバムが、自分のものになると知ったときの気分は、そりゃあもう言葉ではあらわせないくらいのもんだった(笑)
ヒッソリと復刻されたそのアルバムは、やはりヒッソリとした、できれば人に教えたくない、自分ひとりだけのものしておきたいような内容のアルバムで、といってもぼくの周りで知ってる人間は、そのロック喫茶で知り合った人たちだけだったし、国内でも100人もいなかったんじゃないかという気がする。いや、50人かな(笑)(今、大人気のニック・ドレイクだって同じようなもんだった。いや、もっと少なかったかもしれない。今じゃ本も出てるし、なんだか信じられないような気がしてる)
“抑制のきいた訥々としたヴォーカルは、控え目で趣味の良いバッキングとともに、淡いセピア色の空間を海のように満たしている。ひたひたとおしよせる波の音から始まる「SeaFeaver」や、枯葉のように舞い踊るフィドルに乗せて歌われるトラッド「Belfast」など、いずれもいくばくかの寂寥を帯ながらも暖かを感じさせる味わい深いものだ”
引用したのは、僕の好きな木下さんのこのアルバムの評の一部だ。結局この評にぼくの場合引きずられてしてまうので、あえてそのまま引用させてもらった(笑)(蛇足だけど、当時ぼくは、木下さんのこのほのかに文学臭が漂うアルバム評が好きで、こんな風に書けたらなあ、と密やかなファンだったのだ)
その後、アーニーの兄いは(笑)ヘルプ・ユアセルフ(マルコム・モーリーというなかなかのメロディーメーカーもいた小粋なパブ・ロックバンド)に、暮らし安心クランシー(ファンキーなロックバンドなんだけど、数少ないアーニーの曲は泥臭いR&Bで少し色合いが違う。だから好き(笑)と渡り歩き、あれはいつ頃だったんだろう、80年代の前半だったと思うけど、Stiffからシングル♪ロミオぉ〜 ロンリーガール の「ロミオ」を出して音沙汰がなくなって、2000年に入ってアーニー・グラハムがCD化されたとともにその死が伝えられたんでした。[:W150]最後になってしまったあの「ロミオ」に「オンリー・タイム・ウィル・テル」が大好きなぼくには、「お、この路線、王道のアメリカン・ポップス、原点回帰でまたやっちくれぇ〜」と期待していただけに、ほんとに残念でならなかった。今もこの曲を聴いてると思うんだけど、絶対に何曲か他にも曲を録っているはずだと。もっと泥臭いR&Bやソウルっぽいものなんか、きっと録音してるはずなんだとなぜだか思うんだよな。そんなアーニーの幻の録音を聴いてみたいんだな。
幻の録音の他に♪ロミオぉ〜 ロンリーガール の「ロミオ」を聴いていたらロック喫茶でバイトしてた頃のコトを思い出した。
ぼくは、いつも閉店間際になると「閉店ですよ」とうながす代わりにシングル盤をかけたりしていた。そん中の1枚がこの「ロミオ」で、夜の11時にこの曲で締めるとのりのりで踊りながら支払いを済ませて帰っていく常連の女性客がいた。その人はいつも閉店の2・3時間前にやってきて最後までいるといった一風変った人だった。なんでも、もう子供もいて、とか、ちょっとオカシイ、とかいう話を聞いたが、どれもうそっぽい気がした。面白いのは、アーニーなどののりのいいやつじゃない、エレクトリック・トラッドやそれこそニック・ドレイクなんかで締めた時の彼女の態度であった。もう、消えてなくなりそうなほど小さく肩をつぼめ、うらめしそうに上目遣いでこちらを見ながらゆらりと帰っていく。それを見るたびに「あ、やばい、失敗した」と思ったものだった。でも、彼女は、きっとそれらの曲も嫌いじゃないような気がぼくにはしていた。そんなことを思い出しながら、今頃どうしてんだろう、と、ふと気にもなったりして。
音楽ってぇのは、そんな力も持ってるんだなあ、と改めて感じる今日この頃。サラバ〜。


古本「山風蠱」http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Piano/9491/newpage3.htm

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