SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

横浜古書店徘徊

ゆえあって、横浜はランドマーク・タワーまで行くことになった。
片道660円の交通費が痛い。ホッピーセットをたのんで、中だけ3杯おかわりができるもなあ。
なもんだから、さっそく昔買った古本屋の地図を取り出し古本屋をチェックすることにした。ただでは帰らないオレなのだ、せっかく大金払って行くんだかんね。って、そのぶん古本買ってたら同じじゃないのという声がどこからか聞こえてくる。それはええねん!
けっこう桜木町近辺は古本屋が多いというのを頭のどこかで覚えていたのが幸いした。地図にはやはり十件ぐらいの古本屋が出ていた。よし、いいぞとひとりうなずいたのだった。
翌日、すばやくランドマークタワーの用件を済ませると桜木町の反対側出口へと向かう。そこからピオシティビルの裏手の通りをひたすら進んでいく。と、通りの反対側にダイエーが、ダイエーが、ダイエーが、、、見えない。聞いたこともないビルがそこにはあった。きっとダイエーがつぶれてこのビル名に変ったんだろうと、通りを渡りその角を右に上る。やっぱこの道で正解。ありました、苅部書店。見るからに汚い古本屋。でもこういったところに掘り出し物は潜んでいるのだ。しかし、目に付いたのは、山口瞳開高健の著作が良く揃ってるところぐらいで後はたいしたものはなかった。ま、最初はこんなものなのだ。
気を取り直し次の店へと今来た道を戻りまっすぐに吉田町をめざす。で、このへんにもう一軒、恵比寿書店というのが、というのが、、、ない。古い古書店地図だからこんなこともあるだろうと次に出くわす予定の書房花咲へ向かうも、そこもない。なんだか嫌な予感がする。が、めげずにもう次へと向かう我が足のフットワークの軽さよ。場所は、伊勢崎町のショッピング・モールだ。
♪ぱらッぱ ぱららぱっぱら  あ〜あ〜 あなた知ぃぃってるぅ〜 みなと横浜ぁ〜 
青江美奈のあのフレーズが、歩きながらもすぐさま頭をよぎる。
♪ずずずび ずびずびずびずばぁ〜 灯がぁともぉぉる〜
たまに
♪ずずずび ずびずびずびずばぁ〜 ぱぱぱやぁ〜 やめてけれ やめてけれ
なんていうもんにも変りながら何度か繰る返してるうちに伊勢崎町のショッピング・モールへと到着。平日の昼時なのに結構な人手だ。
左右を気にしながら、おのぼりさんよろしく歩いてゆくと右手にいい感じの古本屋「伊勢崎書店」を発見。

表の均一棚をまずはのぞくと、講談社文藝文庫の石川淳「鷹」が目に飛び込む。すばやく中を見てみるも書き込みがひどい。値が書いてあるところにも判子が。どうも均一本全てにこの○の判子が押してある様子。うーん、これじゃしょうがない、と中へと進むことに。するとオレの好きなミステリ、探偵小説のたぐいが充実していてなかなか悪くない品揃えなんだけどちょっと高いし、買いたいものは無し。うーん、少しがっかりしながら表へと。そしてその先、なぎさ書店、川崎書籍、博文堂書店とのぞくもこれといったものがやっぱりなにもなかった。
♪あ〜 あ〜 ともだえるような溜息とは程遠い、疲れて参ったなというあきらめの、「あーあ」の溜息が。これがほんとの伊勢崎町ブルースか、、、。そういえば、このショッピングモールの中ほどに、大きな青江美奈のでっかい肖像画とともに伊勢崎町ブルースの石碑が立っていたっけなあ。

なんて思い出しながら関内方面へと戻ることにする。
腹が減ったので、どっかなんかうまそうなものを食わせるところはないかなあと通りを左に折れてみる。と、あれ?どっかで見た風景。お、あれは、Jhon・Jhonじゃないの?

お懐かしやのJhon・Jhonの看板が出現。その昔、年末になれば中華街で忘年会が行事となっていた頃よく顔を出していたスナックなのだ。
ここのパパジョンは有名なオーティス・クレイのおっかけで、彼の撮った写真がオーティス・クレイのレコードジャケットに使われたりしたのだった、というのを昔TVでやっていた。あの頃、20年以上前でおいくつだったんだろうか?とてもベレー帽のよく似合う感じのいい好々爺だった。野音のブルース・カーニバルで皮の水筒に入れたワインをご馳走になったことなんかもあったな。なんていう思い出がまたあっという間に頭をよぎった。と同時にある日の狂喜乱舞の一大ジャムセッションを思い出していた。
中華街での早めの忘年会も終わり、ここJhon・Jhonで一服するうち、誰かがハープを持ち出しこのモール街に飛び出し吹きはじめたのだ。それに合わせるがごとく、もう一人は店にあったギターをひっつかみ、また一人はマラカスを握り飛び出ていった。そのほかの連中はビンを叩き、大声でうたい、手拍子をとり、ステップを踏んだ。休日の人々でにぎわうショッピングモールに狂喜乱舞する一団が現われ、お祭り騒ぎとなったんだ。
その辺にいたチビッ子に異人さんたちに変な人が入り乱れ、セッションは小一時間もつづいただろうか、延々と弾き続き、吹き続けたギター&ハープが息切れを起こし、Jhon・Jhonに戻りビールを飲みだすとともにその大宴会も終わった。なにがなんだかわからない、若さとバカさ丸出しの狂喜乱舞だった。だったから、ほんとに気持ちよかったんだよなあ。と遠い目をしてもあの日が帰ってくるわけじゃないし、あの日にも帰れない。
なんだか恥ずかしさがこみあげてきてあわててオレは、その道を引き返した。
そばにあった、天丼のてんやに飛び込み、そのバカさをふり払うように天丼500円をかき込んだのだ。500円の天丼は妙に旨かった。
落ち着いたオレは、関内方面に向かうことにした。
駅に向かう道とそのまま、また商店街が続く道が行く手に現われた。商店街のアーケードには馬車道と書かれていた。
馬車道か、懐かしいっ」

やっぱりその昔、このあたりに月に一・二度来ていたことを思い出し始めていた。
その頃、あるレコード店でバイトをしていたオレは、輸入レコードやビデオがこの港横浜の税関に到着すると出かけて行き、レコードのジャケやラベルのまずい表記を消したり、ビデオに映るまずい部分(ディヴァインのピンク・フラミンゴにミック・ジャガーのパフォーマンス、イージー・ライダーなんかを良く覚えてる)を消したりしていたのだった。そんなとき昼飯を食いに出るのがここ馬車道の喫茶店だったのだ。
相変わらずなんだか旧き良き時代の匂いが残るその通りを歩いていると、あるビルの二階が目に付いた。そこにはあふれんばかりの本が山積みにされているのがわかった。
あれを見たならば、当然のごとく足はそこへと向かってしまうのが古本フェチのさだめ川。
横に回って入り口を探してみると、上へ上がる階段が均一本の並べられている台の横にひっそりとこっそりと、なんだか口を大きくあけているようにあったのだ。

階段を踏み出し、上を見上げてみると上がりきったところに本棚が、階段脇の壁面にも本がびっしりと並べられている。
壁面に並べられているのは、よく見てみると全て洋書のペーパーバックで薄汚れていたりヤケていたりした。
こりゃ、ちょっと期待薄かなあ。と思いながらも足はどんどん階段を上っていく。
上がりきったところの本棚は、各社の文庫がぎっしりと詰まっていた。が、おっ、と思うものは全て購入済みのものだった。でも、その購入済みの全てが、なんとかやっと集めた文庫本ばかりだったので店内の本に大きな期待を抱くことになったのだ。
上がりきった右手が入り口で、恐る恐る中をうかがうように入ってみると、弓なりにしなっている珍しい本棚いくつもあり、そのひとつひとつに本がぎっしりと詰められている。
まずは手前の本棚をゆっくりとあせらず見ることにする。あせると見落としが多々あるのである、オレの場合。
するとこの棚は純文学系の棚らしくあいうえお順の作家別に本が並べられていた。
見ていくごとに、おっ、と思うものばかり並んでいる。でも、全て苦労して、何年もかかって集めた本ばかりであった。
試しに稲垣足穂の「一千一秒物語」金星堂版を抜き出してみると、程度も少しヤケてはいるけど気にならないし、中の状態もいい。最後のページを開いて書き込んである値段を見て驚いた。新刊の単行本と変らない値段だ。隣の「天族ただいま話し中」は、オレが買った値の半分だった。あわてて手当たり次第、目に付いたものを引っ張り出し見てみるとみんながみんなそんな値段だった。うー、もう少し早くこの店を知っていれば、、、。しかしながら、すべてなんとか手に入れてある本ばかりである。なんだかなあ、と残念なようなしょうがないような、なんともやりきれぬ気分で出口へ向かうオレの背に、少しくぐもった声がかけられた。
「ひゃい、これ」
後ろを振り向き声のしたレジあたりを見てみると、入りしなにちらっとみたレジ奥の店主らしき男性が片手に本を握ってこちらに差し出してるではないか。
「はぁ」
とうっかり漏らした声がその店主に届くと同時に足もレジへと向いていた。
視線は、その差し出された本へ釘つけになってしまった。
店主の手に握られているのは、オレがズーッと探していた城昌幸の「みすてりい」に違いないのだ。ターコイズ・ブルーの色合いが切なく、またはかなくオレの目を射抜いたのだった。衝動的に手が出て本をつかんでいた。はやる気持ちに、箱から中身を出すのに手間取ってしまったが、同様のターコイズ・ブルーの中身がオレの掌中にある。急いで裏表紙をめくり、値段を見てみるとそこには、えんぴつで薄く“300円”と書かれてあった。う、うっそだろう、、、、、、
うそだった。そんなことがあるわけない。そして、そんな古本屋もあるわきゃない。
て、馬車道に一軒、古本屋はあった。弓のようにしなった本棚もあったのだが、オレには関係のない専門書ばかりだったのだ、実は。
そんなわけで、結局、これといった収穫も無く、最後に赤レンガ倉庫を愛でて家路に着いたというわけ。あー、疲れた。
おそまつ様。

古本「山風蠱」http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Piano/9491/newpage3.htm

ずーっと、ぼちぼちやってます。よろしくです。