SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

「三人噺 志ん生・馬生・志ん朝」

私はこの頃、美濃部美津子さんの「三人噺 志ん生・馬生・志ん朝」です。
出たときに、ああ、読みてぇなあ、なんだか無性に読みてぇなあ、と思ったもんですが、読みかけの自叙伝じゃなかった(笑)、読みかけのもんが溜まりに溜まってて、ま、いつもそうなんですが、へへ、そんときにかぎって、この読みかけのやつばらをなんとかしないうちにゃ、新しいもんを買っちゃならねえ、なんて気持ちが強くなったりしたもんで、そのまま忘れちゃってたわけなんですね、これが。
で、やっと、今回文庫に入って、それからも、もう随分経ってますが、こうやって買っちゃいまして読んでるわけでございますよ。
いやぁ、いいね!ほんと、いいね!生のことばだね!聞き書きなんでしょう、美津子さんあったかい生の声が聞こえてくるようで、ほんとに心根に沁みてきますよ、これは。
まずは、売れない志ん生さんを影ながら支えてたお母さんの話。食うや食わずのびんぼう生活の中、一生懸命内職をしながら子供達をあの志ん生さんを支えるお母さんの話は、なんともじーんと胸にきちまうワケなんすよ、これが。ほんとに当時のお母さんは、えれぇなあ、強かったんだなあって、なぜだかうちのおふくろの姿を重ね合わせたりしながら読んじまいました。身体の弱かった弟の馬生さんを気遣う美津子さんの姿にも打たれるもんがございます。
そして、お父さん志ん生さんの話。とても怖がり屋でお酒が大好きではありますが、そんなに量は飲まなかった、そして、勉強熱心な馬生さん、蝶よ花よと育てられた志ん朝さんの話と続いて、いちいちエピソードをあげたいくらいですが、それをしちまっちゃあ、これから読む人に申し訳ないってことになるからにしてあげたりはしませんが、ほんとに読みながらその光景が、こうぱぁーっと目に浮かんできて、そんな情景をアタマん中に浮かべながら、そこにアタシの子供んときの思い出なんかもおっかぶさってきたりなんかして、ふわーんとあったかくなってくるワケなんすよ。
アタシんちは、田端の下町だったもんですから、志ん生さんたちが暮らしてたところもそのあたり。アタシの小さい時分とかわらない下町の風情がそこここに漂っててほんとに懐かしくって懐かしくってたまらなかったっすよ。
けっしてね、こう、えらぶってないっていうか、とてもカラッとした江戸ことばで、ほんとなら悲惨で目もあてられないようなびんぼう話が、思わず笑っちゃって、その後をおいかけるようにほんわかとあったかくなり、ほろりとさせたりというようになってこっちへやってくるっていう寸法なもんで、こりゃ、ほんとに血は争えませんね。志ん生さんの気質をいちばん強く受け継いだのは、馬生さんでも志ん朝さんでもなくて、もしかしたらこの美津子さんじゃねぇか、きっといい落語家になったにちがいねぇ、なんてことを深く感じさせる読み物でした。
あー、いい心持だぁ。えー、そう、ふーん、そいつぁ、、、よしておくれよ、いやだよー、半鐘は。この心持がオジャンになるからさぁ。

古本「山風蠱」http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Piano/9491/newpage3.htm

ずーっと、ぼちぼちやってます。よろしくです。