SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

ボン書店は幻

とはいっても、もちろん「ボン書店」は、昭和5年からあったし、数々の目を瞠るような書物を世に送り出したことは確かなことなんだけれど、、、。
なぜなんだろう?この店主鳥羽茂の姿がどうしてもはっきりしない。早熟の詩人から版元といっても一人っきりで植字をし、紙から装丁まで本作りの全てを一手にこなしていた本人の実像が、あれだけ内堀さんが手をつくし調べ上げたのに、文庫本のあとがきには、単行本出版後、妹さんからの連絡もありより深い姿が浮かび上がると思っていたし、実際、分からなかった部分が見えてきたのだが、なぜにこんなに朧なのか、希薄なのか、、、。
あたかも鳥羽自身が「もう、いいだろ、こんぐらいでやめてくんないかな」なんていう感じでこちらの意識に残らないような暗示でもかけているような、そんな気がした。
でもって平行して読み出したのがジョー・ヒルの「二十世紀の幽霊たち」。某書評誌にて面白いと絶賛されていたので気になっていたら、新聞の書評にも取り上げられたりして、こちらが買いに行った時には品切れ状態で、やっと先日重版されて読み始めたいわくつきの一冊(笑)そういうのにかぎってつまらないのが相場だが、なかなかになかなか面白い。短編集なのでつるつると読める、といいたいところだが、どうもつるつるとはいかない。早い話が翻訳モノのミステリーなりホラーなりファンタジーなりSFなりっていうのが、いまひとつ得意ではないのだ。なぜなんだろうか?なんてつるつると考えてみるに切なさ、やるせなさ、はかなさなりの哀愁感、耽美の世界がどうも大味でどうしてもいい感じに受け入れられないのだ。こりゃ、しょうがない部分でもある。乱歩、横正に始まり、久作、十蘭、ボン書店の著者一覧にも名を連ねていた城左門こと城昌幸橘外男、もっともバタ臭いと思われがちな足穂さえ先に書いた様々な要素が、外国の作家とは比べようもないほどこちらに伝わってくるのだ。って、こんなもんはやっぱり個人の好みの問題だけど(笑)。
日本人は、美的感覚、細やかな気遣いや繊細さに優れた民族だと常々思っているアタシであります(笑)
でもって先日も書店をのぞくと澁澤さんの書評集成なるものが文庫で出ていたので思わず手にとって見ると、なんと小林信彦じゃなくって中原弓彦の「汚れた土地」の書評が出ているじゃござんせんか!「へぇ〜、汚れた土地の書評を書いてたんだ!」とびっくりし即、購入。随分前に、友人に澁澤さんの本をあげた時、鼻で笑われたのを思い出す。ありゃ、高校生あたりが取る態度と同じでこっちが笑っちまったけど。やっぱ、澁澤さんはスンゴイ人ですよ(笑)鼻で笑える人ではありません。って、ま、いいかぁ(笑)
なわけで、ほんとは、片岡義男の諸作品を実は読み返そうと思っていたんですが、その2冊を先に読むことに、、、いや、太宰も読み返したくなって、特に「お伽草紙」あたりの物語が読みたくなってたりして、ほんと読みたいもんが目白押しでありがたい、ありがたい。