SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

安吾と足穂

しかし、いやなことっていうのは束になってやってくるもんですな、ほんとに。
ほとほと精神的に疲れてしまいます。そうじゃなくても寄る年波、体力の衰えもあるもんですから余計に辛いもんです(笑)。なんてことを書くと、これまた励ましの迷惑メールが大量にやってくるんで(笑)。
そんなときには、音楽と酒っていうのもいいんですが、聴き終わったり、また飲み終わったりすると、その倍ぐらいの大きさ重さでいやな気分がのしかかってきたりすることもあるもんで、ちょっと困りものであります。
そう考えますってぇと、やはり本に浸ってみるのが私の場合はいいようで。中でも無頼も無頼な坂口安吾のエッセイなんかが効果抜群な気がしますな、あくまで私の場合はですが。
で、また手にとって読み始めてみると、いつも気になることが少し思い出されるわけです。今回は忘れないうち、読んでる最中は、気になっているんだけど、読み終わると忘れている、もしくは「ま、いいか」とうっちゃってばかりなので、ちょっと書き出しておこうと思い、ここにこう書き始めるわけです。
安吾の「ピエロ伝道者」というエッセイがあります。私の好きなエッセイのひとつなんですが、その書き出しが
「空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。屋根の上で、竹竿を振り廻す男がいる。」
というものなんですが、ま、この後、日本のナンセンス文学について考察をするんですが、この時点でピンと来る人は、ピンと来たりすると思うんですが? これって、稲垣足穂の「星を売る店」となんか関係あるんじゃないのかっていうことなんですね。
足穂の「星を売る店」では、
「アラビア風俗の白い頭巾と衣をつけた人物が五、六人集まって、彼らの頭上にある星屑を、先に袋がついた長い竿でかき集めているところである。」
と書かれていて、そうやって採ったこんぺい糖に似た星が、いろんな摩訶不思議な効力を表す話なんです。
ね、なんか関係ありそうでしょ? 私は、安吾がこの「星を売る店」を読んでたんじゃないかって思うんですよね。そして、自身も考えていたナンセンス文学に対する思いを反映させたと。だって、この「星を売る店」、とっても質のいいナンセンス文学に他ならないと思うんですよ。今でいうファンタジー的要素も多分に含まれておりますが。当時はきっと、なんて荒唐無稽な物語か、なんて言われていたに違いないと思います。で、その荒唐無稽さと新しさに佐藤春夫はびっくり、どっきりして弟子にするわけですね。
そして、安吾は、「Farceに就いて」や「文学のふるさと」なんかで表される独自の文学を形成して、「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」なんぞの物語に結実していくわけなんですが。そんなわけで、足穂も安吾も出が同じなんではないかと思ったわけです。とりあえず、今回は、ここまで。