SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

荷風


その昔、某国営放送で「断腸亭日乗」から抜粋したものをドラマ仕立てにして永井荷風の生涯を描いたTV番組あった。その監督が確か、新藤兼人。有名なエピソード?空襲警報が鳴り響き、騒然とする街中、どこかの庭先にあった薪の束?を盗んで帰る荷風の姿が印象的で良く覚えている。それと、その放送に対して小林信彦が「灯火管制の中、あの提灯をぶら下げた川端の描写はおかしい」というようなことをどこかで書いていて、笑ってしまったので、余計に印象強く残っている(笑)
「でも、しかし、待てよ」と、その時思ったのだった。そんな単純な間違いを、あの新藤兼人が犯すのだろうか?と。で、これは、「断腸亭日乗」にあたってみるしかないだろうな、なんて思っていたのだけれど、以前にもどこかで書いたようにすぐ忘れ、今日まで来てしまったのである。良かった、また思い出した。あたってみよう(笑)
しかし、そのドラマの中で最も印象に残ったものは、唯一、本当の本物が映し出された瞬間であった。死んでいる荷風の姿である。布団の中で静かに永眠している姿なんぞではなく、これからズボンを穿くのか、それとも脱ぐのか、中途半端なところまでずり下げた、または、ずり上げたズボンの姿勢のまま、顔から畳に落ちていったのであろう体勢で絶命している永井荷風のその姿であった。無残さの中の滑稽さ、他愛なさ。どきり、とさせる写真だった。
なんでそんなことを思い出したのかというと、佐藤春夫が書いた「小説 永井荷風伝」なるものを思わず買ってしまったからなのだが(笑) 安吾あたりは、エッセイの中で最も通俗安直な懐古家などと批判したりなんかしてるので、そういう取り方もあるんだと、こちらもなかなか面白くて(笑)。 未だ気になる作家の一人である、永井荷風