SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

「酒の追憶」

というエッセイで太宰は、酒にまつわる思い出とともに、戦後の日本酒の飲み方とそれ以前の飲み方の違いを語りながら世相風俗の恐ろしいほどの変貌に唖然としている。それによると戦前は、お猪口でちびりちびり飲るのが普通だったらしい。それも差しつ差されつ、独酌なんていうのも珍しく、コップ酒、冷酒、ちゃんぽんなんていうのももってのほか、野卑で新聞種の陰惨きわまる犯罪であったと書いている。あれだけ放蕩無頼で売った太宰にしては、なんとなく妙な感じがするし、ちびりちびりなんていうほうがもってのほかな気がする(笑)。これも先日から読んでる出久根達郎の「作家の値段」(これがなかなかに面白い本で、出久根さんの作家に対する思い出もいいのだが、なんで古本がその値段になるか?がこと細かく書かれている。いつも古本にまつわる話を読むたびに「だから、その幻の本は一体いくらなんだ」「何でそんな値段になるんだ」という疑問ばかりが残ってた私にとって目からうろこの本でありまして(笑))には、高峰秀子追想で、深酔いした太宰がもっと飲ませろと女中にねだる醜態が書かれてたけど、こちらの方が太宰らしい。
何しろ太宰は、日本酒があまり好きでなかった。苦い思いをして、吐いて、の繰り返しの苦行の末になんとか飲めるようになったとも書いている。そういえば、もう独りの無頼、安吾も酒をうまいと思って飲んだことがない、酔っ払うために飲んでるんだと書いていた、確か。うーん、当時の日本酒の質はそれほどよくないにしても私とはだいぶ認識、いや味覚か?が違う。私は、なんてうまいもんなんだろう、と思っていた。
子供の頃、オヤジの晩酌の熱燗をよく舐めさせてもらった。その頃からあのツンとくる臭いも、あの甘さの中にもぴりりとシビレル味も好きだった(笑)。とここまで書いてきて、また着地点が分からなくなってきた。出だしの酒の飲み方がだいぶ違ってたんだ、昔は。で終わりにすればよかったところを「作家の値段」の話やら安吾が出てきちゃったのがよくなかった。いつもならなんとかこじつけて終わらしたりもするんだけど、もう疲れてしまった。だから「フリーター、家を買う」の話にしちゃう。1回目を見たときなにやらどきっとした。二宮くんが、あの頃の自分と重なったから、うちの子供とも重なったから(笑)。だから目が離せなくなって2回目も見てしまった。きっとこれからも見ちゃうんだろうな。ほんと嫌な奴だったんだよな、俺って(笑)。でも今もたいして変わってない気がする。いい歳こいて、このぉ〜!
しかし、今の日本酒はほんとに旨い! 冷がやっぱり一番だけど、ぬる燗もよし、熱燗もよしで。焼酎もそんなところがあるけど、甘みが違いますね。焼酎といえば、太宰は、冷酒は、陰惨きわまる犯罪、焼酎にいたっては怪談以外にはでてこない、何ぞと書いている。私が小さい頃も焼酎はあまりいいイメージがなく、めちゃくちゃ安かった覚えがある。それが今では、日本酒と同じように愛飲されてるし、値段も変わらない。ほんとに変れば変るもんだなぁ、と思う。なわけで、変れば変るものを挙げていきたい気になったけど面倒なんで止める(笑)。でも一つだけ、あの男でまゆげを細くカットしてんのがどうも嫌でしょうがない。