SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

私小説が読みたい

しかし、よる年波には勝てません。先日の立ちっぱなし&それ以降の立ちっぱなしで例の踵の痛さは増し、膝と腰への鈍い痛みが加わったってぇ寸法で、ちょっと参っとります。これが若いころなら、3日もすればなんともなくなるんですが、くぅ〜っ!
先日来、車谷長吉さんの読書遍歴の文庫を読んでるんですが、これがなかなか面白い。なにしろ私がその昔読んでいた作品とかぶさるものが多いのと、気になってた作品が紹介されてたりするんで、それも車谷さんが気に入ってる部分をごっそり引用、例えば、エロ小説のくくりなんかで「どんなもんだろう?」なんて、ずーっと気になってた芥川作と言われている「赫い髪の女」が紹介されてたりするもんでありがてぇわけです。他にも読んだことのない作家さんの文章に触れられて、「あ、なんかいいね。今度読んでみよう」なんて気持ちにもさせられたりして、それもありがてぇわけです。
で、その「赫い髪の女」ですが、こりゃ、車谷さんも言ってるように芥川の作品じゃありませんね。ほんと、単なるエロ小説(笑)。文学とはなんぞやと文学に命をかけちゃってる文学者(「しゃ」ではありません、「もの」です。今はいません)の書くものではござんせん。決してきらいじゃなんですがね(笑)。そういえば、「或る日の大石内蔵助芭蕉の臨終の席を書いた、なんだったっけな? とかをこないだ読んだんですが、流石に芥川、人間心理、その情景をありありと眼の前に浮かばせてくれるその手管「凄いもんだな。もっときちんと読まにゃ」と思ったばかりでした。あ、そうそう、「好色一代男」の西鶴の話なんかもあって、渡し船の中で袖すりあうといいますか、膝すりあうのも多少のエロスの縁、の描写の素晴らしさ、そのなやましさに陶然となったりしましたが。あの短編を読んだ日にゃ、とてもじゃないが「赫い髪の女」を芥川作だのと口が裂けても言えないでしょう。あっという間に読めちゃうんで、よかったらお試しください。
でもって、車谷さんに話を戻しますと、この方もある意味文学に命をかけていらっしゃるようで、自分がどれほどどうしようもない奴、卑小な奴と卑下する文言が何度も繰り返されるもんで、少し辟易する部分が無きにしも非ずですが、ま、それが氏の色と言えば色、どちらかといえばわざとそういってるようにみえなくもない(笑)、それも芸のうちっていうわけで、、、。あれ? もしかしたらやっぱりわざとそういう所を表出させて、、、あら、もしかして自身のことに関しては全部フィクションだったりして? そうだとしたら、軽くだまされちゃってるわけで、、、ま、それはそれで面白いけど(笑)
昔、私小説なるものを好きで読んでいた時、葛西善蔵や嘉村磯多、宇野浩二近松秋江、ちょっと毛色の変わった藤枝静男などなど、当時の作家のみなさんは、そんなそぶりも見せなかったような気がします。って、そんなこたぁないか。当時面白いなと思ったのは、自分でわざと自信を窮地に陥れるところがあるようで、そこから私小説を創り出していく。そんなところが多分にあって、あれって考えようによっちゃ、自然じゃない、自然主義文学に反してるわけで、ってうるせぇーな、相変わらず。そんなこたぁ、研究者にでも任しておきゃいいんだよ、ね。こちとら、そんな窮地に追い込まれた人間の情けなさや凄さなんかを感じて、「あ、ばかだねぇ〜」とか、「お、やるなぁ〜」なんて感じてりゃいいわけなんだから(笑)。
なわけで、また私小説を少しずつ読み返してみようかな、なんて思いだしてきた今日この頃。押入れの中、ひっくり返さなくちゃ、この暑さの中。ってやっぱ、もう少し涼しくなってから、ゆっくりとやることにしよう。