SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

深沢七郎vs山下清

深沢七郎を読んでいると、どうしても読みたくなるんですよ、山下清深沢七郎の対談が。
他の対談相手には、深沢さん好き勝手に、自分のペースで、自分の話したいことだけ話してるんですが、これが逆転するんですな、山下清との対談は。山下清に対して、もうなんとも気を遣って、一生懸命わかるように説明する。そのへんがもう抱腹絶倒というか、面白いんですな。それに、山下清がこれまた、天然の人ですから、とてもびっくりするようなことを何の衒いもなく、ポンとしゃべるんですね。いつもなら自分のお株であるところを全て持っていかれて、びっくりしちゃってる深沢七郎がこれまたいいんですな(笑)
姥捨て山にしても、山下清は「どうやって捨てちゃうの、ゴミみたいに?」と聞いた後に「でも捨てても歩いて来るからな」なんてことを言ったりして、それに対して「鋭い」なんてもらす深沢七郎(笑)。でもって役に立たなくなるから捨てちゃうんだろうな、子供と年寄りはどっちが大切なのか、子供を大事に育てても恩を返さない、骨を折って大事に育てても損するんだな。でドカンと敬服する深沢さん(笑)。そこから話はもっと大きくなり、戦争もあれだけ大骨を折って負けちゃって、戦争しなけりゃ良かったって思っちゃうな、から大東亜戦争も負けたらみんな迷惑するから、初めからしなけりゃいいな、もし負けたらどうなるか、先のことを考えないんだな、やっぱり、なんていう話にまで及ぶのである。でもって、深沢さんは、心の声で(この対談だけその時の深沢さんの気持ちが()内に表されていて面白いんですよ)「戦争のことになったので困ってしまった」だの「私もよく知らないので困ってしまった」などたじたじとなってしまってるところがもうほんと面白い。
それにしても山下清の単純素朴な目には、アタシも深沢さんと一緒になってペキンと敬服してしまう。
でもって、へびとマングースの話になったり、歳を取ってしわだらけになると汚がられる話、そして最後の、やっとここで深沢七郎の眼力が発揮され、面目を保つような(笑)絵の話しなど、ほんとに笑いながら感心させられる対談なんだな。深沢対談からこれを抜いたらいけませんよ(笑)。あ、最後の二人で一緒に散歩してるところをと、カメラの人に言われるのだけれど、もう貼り絵に没頭してしまってる真剣な姿を見ると失礼と思いまたいつか一緒に散歩でもしながら話したいなと思った。っていうところもなんだかすんごくいいんだな。そうなんだな。ハ、ハイ。
確か、ちくま文庫で復刻されたんで、気になる方は読んでみてください。「深沢七郎滅亡対談」。他の対談相手は、井伏鱒二木山捷平大江健三郎古山高麗雄、秋山駿、米山耕蔵、古賀忠道白石かずこ、北村サヨ、下山峰吉、坂本スミ子殿山泰司野坂昭如矢崎泰久竹中労、森田スギ等など。他の対談も面白いんでオススメなんだな。ハ、ハイ。