SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

韃靼海峡と蝶

そういえば「ボン書店」の著作者一覧の中にも安西冬衛さんの名前もあったなあ、と思い出す。
澁澤さんの書評集を読んでいて「なんだ、そうだったのか!」とわかったことがあった。
以前からよく私の頭をよぎる言葉があった。それが「だったんかいきょうを蝶が渡っていく」という言葉。
これがいったいなんだったかのかということが、よぎるたびに思い起こされ、いったいどこで聞いたのか、見たのか、知ったのかがまるでわからない、思い出せない、それが歯がゆくてしょうがなかった。
その言葉からその情景がありありと思い浮かべられるのに 
― 果てしも無い海、海峡。夕陽だろうか朝陽だろうか、そのどちらでもなく嵐が去った後のキラキラと輝く海原なのだろうか、その海面に無数の蝶の死骸が一筋の道のように連なり、何色にも鈍く鱗粉が光を放っている ― 
そんな情景がはっきりと浮かんでくるのになんだか皆目わからない。
思い浮かべるたびにわからないという気持ちに囚われるのに、すぐに忘れてしまうのであった。
でもこれは、絶対に梶井基次郎の作品の中にあったはずだという思いがずっとあって読み返せばわかるだろうなんて鷹をくくっていたのだった。
しかし、今回初めてこの書評集を読んでいてはっきりとわかった。安西冬衛さんの「春」という一行詩であることが。なんだかとってもすっきりしたんで書いときました(笑)

               てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った
                            安西冬衛