SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

奇想の魔術師か?


十蘭を読み直してます。岩波の文庫で出た短編集をつい買っちまいまして。
いいですね! やっぱり! なんてんでしょうか、清冽な文章がほんと、気持ちいいんですね。出てくる手合いがやはりみな潔いと申しますか、清潔なんですね。嫌味のない上品さも兼ね備えているし。そしてあの奇想!って表現がいまいちですが(笑)
出だしを読んだだけで、なぜか気持ちをぞわぞわとさせてくれるものがあります。
しょっぱなの「黄泉から」を読みながら(笑)帰ってきたんですが、車内が一変しましたね、ほんとですよ。フランスと日本が混在するその不思議な世界が目の前に現出するわけです。漢字で書かれた日本語に片仮名でふられたフランス語のルビがその雰囲気を醸し出したりするわけですが。主人公の職業が美術品の仲買人(アジャン)で久しぶりに出会ったフランス人の恩師の職業が家庭塾(フォアイエ)で。その在日30年のフランス人の恩師に逆にお盆であることを教えられ、亡き最愛のいとこを思い出し、、、。
在りし日の、下町のお盆の描写がまたいいんですね。
真菰(まこも)の畳を敷いてませ垣をつくり、小笹(おざさ)の藪には小さな瓢箪と酸漿(ほおずき)がかかっていた。巻葉を添えた蓮の蕾。葛餅に砧巻。真菰で編んだ馬。蓮の葉に持った団子と茄子の細切れ…
あんな感じかな?とぼんやりとなんとなくわかるようでわからない懐かしさが湧き上がってくる。字面を見ているだけでなんとも嬉しくなってしまいます。
そこで主人公が用意するのが自己流の棚飾り
ショコラ、キャンディ、マロン・グラッセ、プリュノオ。甘口のヴァン・ド・リキュールのオゥ・ソーテルヌに銀座ボン・トンのキャナッペ。
だってんだから、、、いくらかわかっていただけたでしょうか、日仏混交の不思議な魅力のこの世界を(笑)
まぁ、この辺のところを書き出すときりがないのでこんなところにしておきますが、あ、それと着ているものの描写もいいんですね。
別れの日のいとこの姿が
茄子紺の地に井桁を白く抜いた男柄の銘仙に、汚点ひとつない結城の仕立て下ろしの足袋。
と思いきや、その亡くなったいとこが主人公の嫁さん候補に連れてきたのだろう女性は、
薄い梔子色の麻のタイユウルの胸の襞のようなものは、よく見ると大胆な葡萄の模様を浮彫りのように裏打ちだしたもので、葡萄の実とも見えるガーネットの首飾と照応して、日本ではたいていの場合みじめな失敗に終わるバロック趣味を成功させていた。
なんて感じで、これもよくわからないんだけど、ほんと字面を見てるだけでも楽しい描写がたっぷりと詰まっている。
そして、その奇想の物語! これがメインなんで、これが弱くちゃお話にならないんですが(笑)
ま、とにもかくにも、未だ味わったことのない方は、一度お試しいただきたい。と思っているのでごわす。

あ、そうそう、音の方も先日久々にニック・ロウのThe New Best of Nick Loweを買っちまいました。ほとんど聴いてるものばかりですが、いまいち好きになれずのアウトフット時代を聴けるのと、懐かしのビデオクリップに最近のライブがまるまる収められているDVDが付いてるのが嬉しいんで、ゆっくり聴いて、見てみようと思っとります。相変わらず先を何も考えず刹那に生きてる親父です。セツナ・ベィビー!(笑)