SALT,SUN & TIME

ローザンヌ備忘録

バレンタイン(監督じゃない)

翻訳家の柴田さんの創作集がなかなか面白い。ポール・オースターミルハウザーの翻訳を手掛けているだけあって幻想味といいましょうか、シュールで不条理な、でもたいして難しくない短編の数々が、ほんのちょっと心に残ってあっという間に消えていく。何かを言いたい、訴えたい、なんていうところをあまり感じさせないところがさっぱりしていて気持ちがいい(笑)。なんて書いてはみたものの、ポール・オースタースティーブン・ミルハウザーもよく知らないんで出まかせです(笑)。
「映画館」なんていう話は、昔、個人宅の奥がお好み焼屋になっていたような映画館(うちの方ではそういうもんじゃ焼屋がいくつかあった。駄菓子屋が奥の台所でやってたりしたんだ)で見る月光仮面のパロディ映画の話で、月光仮面のオジサンがスピード違反で捕まってる間に、両手を縛られた人質の娘は、回転のこぎりで切り刻まれそうになってしまう、かと思ったらいつの間にかその娘が映画を見ていた自分になってしまい、頭にのこぎりが当たって血がぴゅーっと(このぴゅーがなんかいい(笑)吹き出たり、その映画館のおばちゃんがなぜか出刃包丁を持って追いかけてきたり、逃げ惑ってその奥の部屋に飛び込むと、月光仮面のおじさんに七色仮面のおじさん、ナショナル・キッドのおじさんがこたつにあたってたり。でもって月光仮面のおじさんがぽつり「もう人間を救うのなんかやめた。人間がゾウリムシほどの価値があるとは思えない」なんてことを言って、それを真に受け真剣に考え込んでしまったら、後ろからおばさんに出刃包丁で刺されてしまったり(笑)。なわけで、この話は僕の古い記憶を呼び覚ますようなところがあって(って全ての話がどこか忘れてた記憶を呼び覚ますようなところがあるな、そういえば)、だから何かを気持ちの中に残す、んじゃなくて、もともとあったものを思い起こさせるような効果があるといった方があたってるのかもしれない。あ、そういえばあんなこともあったなぁ、と思い出させてくれるけど「懐かしいなぁ」とまでにはいかず、なんだかただほんの少しぼーっとさせてくれるようなところがある。だからおばさんに包丁で刺されてしまう(笑)。そのあとのバンドの話もなんだか面白い。「四人の林」という、作者に言わせると、往生際悪く若さを引きずっている、もしくは全面的なオヤジ化を免れているみよじが林のメンバー(okamoto’sのような(笑)からなる元高校の同級生バンドが出す音が、ジャズ的というほど難解でなく、プログレのように大音量と頭でっかちの不快な合体でもなく、ぐんぐん乗せるだけのドライブ感はあるのに、微妙にずらしたり外したりして乗せそうで乗せなく、音量も決して小さいわけではないが聞いてて気持ちよく眠くなるという、こちらもそんなバンドなら聴いてみたいと思わせるバンドが出てきて、面白い。柴田さんのジャズやプログレに対する見方やオヤジバンドのオヤジ感、どんな音がご所望なのかも知れて面白い。
そういえば、鈴木博文さんの「ひとりでは誰も愛せない」なんていう随分昔のも読んでて、これにも映画館でピンク映画を見た話なんかが書かれてたりして、過去の記憶をよみがえらせてくれて。小5の時に「ハレンチ学園」を見に近くの映画館に行って(そういえばうちの近所にもちっちゃい映画館が2・3軒あったな、当時は映画館がどの町にもそのくらいあったよなぁ、ね?)、担任にバレテ怒られ、なんてことはどうでもいいんだけど、「ハレンチ学園」と併映で3本目にやった「でんきくらげ」が見れなかったんだよな、渥美まりちゃんの。なんてぇことや、博文ちゃんのように一発コいて、朝方爽快感とともに映画館を後にするなんてぇのとは違って、ぼくの場合は、ピンクじゃなくってロマンポルノを見終わると、何だか知らない後ろめたさと恥ずかしさがあって、より鬱積したものを感じて、夕闇の中とぼとぼと、なんて感じだったんだけどなぁ。なんてことを思い出したり。
もう、昔のことばかり思い出して、未来のコトなんか何にも考えられないもんなぁ。もうこのまんまで全然いいもんなぁ。そういえば寺山も読んでて、って、もういいかぁ。面倒くせぇ〜。
あ、明日は、ジェフ&エイモスじゃんか! 早く寝よ。